記事:ネットで棺が買える時代、葬儀会社は不要なのか

   

先日、こんな記事を見つけました。
関東のある葬儀社の社長が書いた記事です。
全文は長くなるので、抜粋して紹介したいと思います。

もはや売ってないものは無いのではないかというほどにさまざまな商品が販売されているネット通販大手のAmazonで、市場価格が8万~10万円程度の桐のシンプルな棺(ひつぎ)が2万円前後で売られていると話題になったことがあります。「葬式の形はこれからどんどん変わっていくのだろう」といったSNS投稿もあり、消費者にはおおむね好評でした。

「直葬(火葬だけの葬儀)するならこれで十分」というレビューも書き込まれていましたが、たとえ火葬だけの葬儀であっても実際に自分自身で手配をして行えるのかどうかというと、葬儀屋の立場としては怪しい部分があると言わざるをえません。

遺体というのは死亡後すぐに冷却をしないと腐敗が進み、死斑(紫赤色や紫青色の斑点)が定着してしまったり、臭気を発したりするので、まともな葬儀業界の人間なら、「1日ぐらいならエアコンを強めに効かせれば大丈夫」とは言えないことを知っているからです。SNSなどではこういった「本物かどうか分からない職業人」の出現があとを絶ちません。
確かに、法律上は死亡後24時間たてば、火葬を行うことができます。しかし、火葬炉に空きがないために火葬までの“待ち”が有ります。例えば、午後5時に亡くなった場合は翌日の午後5時まで火葬を行うことができず、今度は火葬場が受入を行っていない時間帯となればさらに日にちが伸びることもあります。こうした事情で、火葬のみとした場合でも「3日後にならないと受け入れられない」といったケースが出てくるのです。
さて、このような現実の状況を踏まえると、実際に3日~4日後まで専門家の助けなく、ドライアイスもなしでエアコンを強めに効かせておけば遺体は腐敗せず、安らかな状態で保存可能なのか。
現場側の言い分としては「十分に出来るとは言い難い」と言わざるを得ません。
葬儀社を利用する利点はドライアイスを深夜や早朝、土日祝日でも提供できる点です。遺体の腐敗は死亡後すぐにはじまり、冷却がなければ、12時間で容貌に大きく変化が見られるといわれています。腐敗は一度進んでしまえば戻ることはなく、「どれだけ変化を最小限にするか」が遺体保全のこつであり、プロの仕事と言えるでしょう。葬儀社は遺体のどこにドライアイスを付けるのが効果的か、冷却したいときに適切な量はどれくらいかなどを熟知したスタッフが、体液の流出が起きないよう、遺体の変化に細心の注意をはらってドライアイスの処置をしています。
もし、自分でAmazonでひつぎを購入してドライアイスの処置だけ葬儀社に頼もうということになっても、それは「お客さま」とは言い難いわけです。
ドライアイスやひつぎの代金には、専門知識を教えるための社員教育費や宿直費など葬儀社を運営するための費用が含まれています。だからこそ、葬儀社は24時間対応できるのであって、「代金が高いから」といって都合のいい部分だけを利用されては葬儀社も成り立たないのです。火葬だけの葬儀であっても遺体に対する処置やリスク管理は多岐に及ぶものであり、専門家の立場で安易に「一般の人が自分でやっても大丈夫」とは言えないのです。遺体の保全に適切な温度は4度以下と言われており、とても家庭用エアコンの冷房機能で冷やせる温度ではありません。日本の家庭に冷蔵庫が普及していることがエアコン程度では食品の腐敗を防げないことを示しているのと同様です。遺体の腐敗ももちろん防げません。
仮に故人が生前「自分の葬儀は火葬だけでいいから」と言っており、ご家族自身の手で葬儀を執り行いたいと希望する場合でも事前に葬儀社に相談して専門的な遺体保全に対する援助を求めていただくのが安全と言えるでしょう。専門的な遺体保全は有料になるでしょうが、故人の最低限の尊厳を守るためには必要なものです。
過ぎた節約志向で自分の肉親を腐敗させてしまい、容貌が耐えられない変化を起こしてしまっても、先述したように元に戻すことはできません。安らかなお別れをするためには何でも自分で調達して行うのではなく、適切な専門知識を持つ人の援助が必要な場合があることを忘れないでほしいものです。

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